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放射性ダストの動き(2011年11月、追加2012年4月)
(http://www.irf.se/~yamau/jpn/1111-movement.html)

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=== チェルノブイリの経験から得た放射能対策は こちら ===
=== 原発事故への対策の提言は こちら ===


 ここでは2011年3月の放射能汚染に関して執筆した科学論文を一般向けに解説する。
  論文1最終版 (公式ページ): Takeda, Yamauchi, Makino, and Owada (2011): Initial effect of the Fukushima accident on atmospheric electricity, Geophys. Res. Lett., 38, L15811, doi:10.1029/2011GL048511.
  論文2 (open access): Yamauchi, Takeda, Makino, Owada, and Miyagi (2012): Settlement process of radioactive dust to the ground inferred from the atmospheric electric field measurement, Ann. Geophys, 30, 49-56, doi:10.5194/angeo-30-49-2012.
  論文3 (open access): Yamauchi (2012): Secondary wind transport of radioactive materials after the Fukushima accident, Earth Planets Space, 64(1), e1-e4, doi:10.5047/eps.2012.01.002, 2012.


空気中を浮遊する放射性ダスト
 『福島から飛散した放射性物質は、風によって運ばれ、雨で地面に落ちてそのまま定着した』
 これが一般的に信じられている汚染の経緯だろう。しかし、この記述にはいくつか重要な見落としがある。それは
* 雨で地面に落ちる前はどうだったのか? 
* 地面に落ちたあと、再び舞い上がった放射性ダストはどのくらい危険だったのか?
* 3月21日の雨の後は、新たに落ちて来る事はなかったのか? 
* 結局の所、いつまで内部被曝の危険性があったのか? 
の4点である。要するに、空気中を浮遊する放射性物質の動向という視点が抜けているのだ。浮遊した放射性物質による内部被曝が、地面に定着した放射性物質による外部被曝と同様に重要であるにもかかわらずだ。
 なぜ、このような見落としが未だに正されないかというと、空気中を浮遊する放射性物質を測定するのが非常に難しく、原発敷地内のような異常に汚染されている場所以外のデータがほとんど存在しないからだ(注釈1)。人はデータがあればその数値を気にするが、データが無ければそもそも問題点に気がつかない。ましてや、地面からの放射線は簡易線量計で簡単に測れるから、そういう簡単に測定出来るデータに関心が集中し、結果的に『空気中の放射能』はますます無視されている(注釈2)。
 『空気中の放射能』の問題は、直接データの不在がネックであるが、だからといって調べられないことはない。直接データが存在しなければ、間接的にそれを推定する。それが科学者の役目である。幸い、線量計による空中放射線は各地で測定されており、更に各地のヨウ素/セシウム比率すら数多くの科学者・技術者の努力でサンプルが採られてきた(注釈3)。
 データはそれだけではない。放射線の事を『電離放射線』と言う事からも分かるように、放射線は回りの分子やダストを電離して、微小イオンを作る(放射線を測る装置の原理もこの性質を使う)。したがって、放射性物質が空気中を浮遊すると、空気中のイオンの量を増やす。それら浮遊イオンは大気中にかかる電場に影響を与えるから、逆にこの電場データからイオンの生成や動き、ひいては放射性物質の動きを推定する事が可能となる(左上の図を参照)。
 これらのデータを用いて、放射性物質の動きを調べてみた。具体的に行なった手法は2つで、一つは 大気電場と放射線測定ネットワークのデータを比較する方法(論文1と論文2) であり、もう一つは 土壌サンプルのデータと放射線測定ネットワークのデータを比較する方法(論文3) である。


これらの手法で、放射能はどのように各地を汚染し、汚染の各段階で再び舞い上がって二次汚染を起こして行った様子がわかる。そして、その危険が一番高かったのが3月14日〜3月20日にかけてで、その後も4月末まで再浮揚していた事が推定できる。
 それだけではない。3月20日に南下した放射性ダスト雲が一様ではなく、ヨウ素の多い核が海を迂回して高萩あたりから茨城県に上陸した様子や、飯館方面の問題が地上汚染だけでなく浮遊ダストにもあって、4月末まで内部被曝の可能性が他の地方より遥かに高かった事も伺われる。


提言
 このように、線量計のデータだけでは分からない浮遊放射能についても、大気電場(PG)測定を噛み合わせるとある程度の推定が出来る。従って、今後世界の何処かで起きるかも知れない放射能事故に際しては、簡易電場測定器を緊急に設置する事が望まれる。
 更に、今度の対策として、柿岡地磁気観測所だけでなく、全国の主な気象台で大気電場(PG)と放射線量の両方を常時測定する事が望ましい。実に日本では柿岡でしか電場測定を行っていないのである。



山内正敏
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注釈1: 放射線量は1〜10分の測定でリアルタイムに正確な値が出せるが、浮遊放射性物質は測定に時間がかかる上に、その解析にも時間がかかる。例えば最高感度のCTBT測定(群馬県高崎市)は1日積分している。逆に測定時間を短くすると感度が足りなくなる事もある。さらに、これらは高さ分布を示さないので、地面すれすれの値は分からない。

注釈2: データの有無で人の関心が変わるという習性は、過去の原子力政策でも『知らすべからず』という誰もが知っている方針(もちろん関係者は否定するだろうが)にも反映していて、例えば現場労働者の受けた放射線量と平均年齢・疾患率は明らかに調査すべき事項であるにも関わらず、そういうデータベースは存在しない。そういうデータを作らなかった(あるいは作っても公開しなかった)という事実だけを見ても、原発関係会社の非科学性は明瞭である。因果関係も何も、データが存在しなければ何も言えない。

注釈3: 各種の緊急測定に関しては学術会議第3部会と文科省原子力災害対策支援本部は非常に良い仕事をしており(いくつかのミスはあったと思うがそれを責めるのは揚げ足取りである)、この努力はきちんと評価すべきだと思う。そのお陰で、これらのデータから多くの科学者が色々な推定を行っている。