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史上最悪の津波災害(発生2004年12月26日)
    記:2005年1月8日(発生の2週間後)
      山内正敏

 まずは全ての犠牲者の冥福を祈ると共に、被災者全員にお見舞い及びお悔みの言葉を述べたいと思います。

 今回のインド洋大津波は、発生がクリスマス休暇にもろにぶつかった為、現地の方々だけでなく、観光客(特に欧米人)の犠牲者ならびに被災者の数はとてつもない数になっています。
 休暇=太陽という公式を体で覚えている欧州人(特に北欧人)にとって、アジアの南国リゾートは憧れの地です。特に冬は、地中海ですら緯度だけ見れば北日本で太陽が低いので、アジアは一番人気のリゾートになっています。そういうわけで、20万人近いと言われる死者・行方不明者のうち、外国人観光客も数千人〜1万いるらしく、欧米の閣僚が誰も被災しなかったのが不思議なくらいと言えます。これを日本にスケールすれば、ゴールデンウイークにハワイからグアムにかけて大津波が警報なしに襲ったと考えれば良いのではないでしょうか。
 欧米の中でも、特に太陽志向の強いスウェーデン人は犠牲者が多く、地震発生4日後の速報での連絡不能者3500人という数字からは減ったものの、最終的には死者・行方不明者が千人前後になりそうで、近代スウェーデンにおける最悪の自然災害と言われています。遺体すらあがらない行方不明者が多い事が混乱をいっそうひどくしており、現時点で行方不明者の数を特定できた先進国は一つも無いと言われています。とりあえず1月8日の現時点でほぼ確実に行方不明と認定できるスウェーデン人が600人以上、それに対してスウェーデン人と分かった死体はたったの52体だから、2週間たっても犠牲者が誰であるか分からないという事態も頷けるでしょう。
 震災の発生以来、テレビを持たない私は、外務省や新聞のホームページ(スウェーデン語、英語、日本語)で情報を集めていましたが、そこで気になったのは日本と欧州での対応の違いです。
 スウェーデンやノルーウェーは外務省のホームページで情報がしょっちゅう更新され、にも関わらず、対応が遅いという批判が大きくあって、それを政府も認めています。日本の方は欧州に比べれば遥かに対応の遅い(その遅さは行方不明者の数が発表された日付けを見れば一目瞭然)にも関わらず、マスコミは外務省を全然批判していません。その結果、行方不明者の数が百人以上もいるのに、その3桁という概数すら震災後8日も発表されていません。それまでに報道されたのは死者10〜20人という数字だけです。外務省職員が20人の特別チームを組んで旅行者の確認をしていた努力は認めるにしても、あまりにも情報が無さ過ぎるのではないでしょうか? これは情報を要求しないマスコミ側にも責任がある筈で、今回の外務省・マスコミの報道は、とても日本人の(死体すらあがらない)行方不明者が百人を越す震災に相応しいものとは思えません。
 もうひとつ気になったのが、震災地へのパックツアーです。スウェーデンではいち早く旅行会社が震災地とその周辺へのツアーを中止し、政府も強く渡航中止を訴え、それが新聞にでかでかとでて、誰もが不要不急の旅行を取り止めています。スウェーデン外務省の12月28日のホームページには渡航自粛勧告の説明で、それによって渡航予定者が経済的損害を蒙らないような措置を取ると(誤訳かも知れませんが)書いてありました。額面通りに取ると、ツアーを取り止めた旅行会社への補償もある事になる筈ですが、正確な所はわかりません。いずれにせよ、震災地への訪問者を自粛せよという常識的な事を言っている訳です。伝染病発生の危険をWHOが警告し、救助・支援の為の道路や物資等をできるだけ確保しなければならない時ですから、声を大にして言うのも当然でしょう。
 対する日本はどうか? 驚いた事に、旅行大手各社は、震災数日後(年末年始)のプ−ケット島へのパックツアーを決行し、予約客の内の1割(約200人?)が参加しています。その理由は、島の東側のホテルは被害が少なく、ツアーが可能だとホテル側が言ってきたから。そして、観光業が経済に重要だから。これは詭弁です。
 経済とは長期的なものをさすもので、観光業界が心配しているのは混乱が終ったあと(1月後半以降)の話です。観光客が戻ってくるかどうかを心配しています。それに引き換え、震災直後2週間という短いスパンは微々たるものでしょう。さらに、宿泊が可能でも、観光客が行く事によって、交通機関とか、食料とか、救援の邪魔をしていないという確認は、旅行会社もマスコミもしていません。ホテルは大丈夫という談話は書いてあっても、現地の混乱がどの程度なのかを取材した記事はありません。
 震災直後に緊急に必要な事は(今もおそらくそうだろうけど)、出来るだけ混乱の要因を減らす事で、観光客とりも医者や救助関係者や救援物資を送る事の筈です。ホテルの向こう2週間の経営ではありません。現にタイの外務省は震災地への訪問者を自粛するように言っています( http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20050104AT2M0301D04012005.html )。もちろん被災地と言う場合、どこまでを指すかが問題ですが、島への交通機関を考えれば、取りあえずパックツアーを中止するのが良識ではないでしょうか。大切な事は、2月以降に人を送る事なのですから。にも関わらず、現地が観光客を欲しているからという一部のホテル経営者の主張を理由でパックツアーを送り、マスコミもその理由をそのまま書いています( http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/sumatra/news/20050104k0000m030044000c.html, http://www.asahi.com/special/041227/TKY200501050264.html )。これらの記事に被災者を思い遣る心や復旧を考える心を読み取る事の出来る人はいないでしょう。
 問題はそれだけではありません。マスコミは日本の外務省の旅行自粛の要請(12月28日付)も欧州諸国の旅行自粛勧告(recommend against)も一言も触れていません。こういう情報こそ、マスコミが流すべきではないでしょうか? 常識人なら旅行自粛を促す記事を書くべきな筈なのです。ちなみに私は年末年始のツアーへの疑問を朝日(大阪)と毎日に12月中に出しています。
 報道というのは無数の情報から一部を選択する行為で、そこに記者の見識が出てきます。そして、今回の日本の報道を見る限り、ホテルの向こう一ヶ月の経営の方が、被災者援助よりも大切だと思っているとしか取りようがありません。これでは、新聞広告の多くの部分を引き受ける旅行会社を、新聞は全く批判する気がく無いのではないかと勘ぐってしまいます。
 唯一旅行会社に同情する点があるとすれば、それは、旅行法です。災害等の不可抗力以外でツアーをキャンセルした場合、旅行会社は代金の他に違約金を払わなければなりません。それで、もしかすると、ホテルがOKと言っている場合には、不可抗力に当らないのかも知れません。しかし、もしもそれが理由なら、それこそ悪法だから、マスコミで取り上げるべきです。それに外務省が旅行自粛の要請を出した段階で不可抗力とするのが常識であって、どうみても、旅行社がツアーを決行した言い訳にはなりません。
 新潟の震災の時、旅館が宿泊可能だからって、震災地と同じ郡や市に行くツアーがあったでしょうか?


ーー 朝日・声の欄への投稿 12月28日昼 ーー
 阪神大震災での問題の1つに野次馬旅行者があった。だから、今回の災害では、被災地へのツアーはキャンセルになると思っていた。現にスウェーデンでは、外務省がいち早く被災地への渡航自粛を呼び掛け、同時にスリランカ全域とタイ南部の沿岸へのツアー客に関しては、向こう1ヶ月分のキャンセルを違約金なしで行える経済的措置をとると共に、ツアー各社も年内発のツアーの中止を決めている。
 日本はどうだろう? 外務省は自粛を呼び掛けるだけで、ツアー中止に伴う経済補償について触れていない。これで、自粛せよと言って効果があるのだろうか? 現にニュースを見る限り、現地が可能だと言って来たから催行するという話ばかりだ。日本の旅行社の情報網は確かだろうが、そこに被災者の心情という視点が入っているとは思えない。日本の印象を悪くしなければ良いと願うばかりである。


ーー 毎日新聞への意見 12月30日昼 ーー
はじめまして。スウェーデン在住の山内正敏と申す者です。

 朝日と毎日を読み比べているのですが、両紙とも、ヨーロッパの対応を余り書かないのはどうしてでしょうか? というのも、今回の災害でヨーロッパ人が1000人以上犠牲になっているらしく、地震発生があと数日遅れていたら、これがそのまま日本人の犠牲者の数になっていたからです。今回一番被害が多かったの外国は(英仏独に比べて人口が遥かに少ない小国という事を考えれえば)おそらくスウェーデンで、当然ながら、素早く外務省が被災地方への渡航自粛を呼び掛け、ドイツと共同でB747の救急飛行機(36ベッド)をチャーターして負傷者の引き上げを始めており、今日に至っては、被災地に残っている全てのスウェーデン人に帰国勧告を出しています。ツアーはもちろん総べてキャンセルです。

 これに引き換え、日本の旅行社は、被災地域であっても、ホテルさえ大丈夫ならツアーを決行しています(例えば近畿ツーリストのホームページなど)。このズレに関して朝日も毎日も何も書かないというのはおかしいのではないでしょうか? 今は、考えられるあらゆる混乱要因を排除すべき時であって、ツアーを続けるべき時ではありません。よしんば、ツアーが可能だった年でも、伝染病の発生が心配されていて、旅行者がそれをもちかえる危険があります。何らかの形でこの問題を記事にする事を痛切に願います。