四十の手習いと云う。初心忘るべからずとも云う。
 この歳になって初めてイタリアに行ってきた。悪い噂ばかりのローマ近郊が行き先だっただけに気乗りしなかったが、…しかも今春の超多忙を顧みてもこの出張は避けたかった…が、立場上どうしても行かねばならず、やむなく「EUで一番行きたくない国」へ出掛けてきた。
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 2つ以上のエネルギ−圏がぶつかると衝撃が起きて新しいものが生まれる。星の形成はまさにそうだし、オーロラも、嵐も、マグマも皆その類であろう。そして文化も…。
 古代ローマは地中海文化の周辺部として発展したが、その成熟後は、帝国の周辺地域で生まれた新国家群…異文化との衝突が生んだもの…に覇権を奪われた。文化ですら然り、いわんや学問においてをや。境界領域にはあらゆるものが息吹く。あたかも洪水に洗われた沃野のように。
 ただし…と歴史は語る。地中海文化にせよ、ローマ帝国にせよ、その周辺部で雑草のように生えてきた多様な文化のうち、大木にまで成長したものはごく一部に過ぎない。学問も然り。そこに「境界領域」科学のリスクがある。良い苗と悪い苗を区別するのは難しい。中には若木と見まごう雑草すらある。
 だから、青年はともかく常識的大人は「既に大木」になった学問を守る。でも、その人生的意義は如何? 大木は余程の条件でないと新しい幹や大枝を作らない。成長するのは梢ばかり。それが成熟した分野だ。百年前に量子力学が始まった時、革新的知見はごく易しい方程式で表わされたが、近年の理論論文に見られるのは極めて複雑な方程式だけだ。遺伝子とは何ぞやという大雑把な時代から、一旦DNAの基本構造にたどりつくや、その後はDNAの細かい構造の1つ1つの意味が問題になる時代となった。幹の出来た後には細部の発展しか残らない。とすれば、既に大きくなった分野を守ったとて、些細な枝葉に引っかかって人生を浪費してしまうかも知れない。その危険と、若木で枯れるかも知れない事に人生を徒労する危険。そのどちらを選ぶか? 若者なら後者を選ぶべきだろう。でも中年の私は?
 ローマに到着した日にバチカンと古代ローマ遺跡とを続けて見たが、バチカンの超繊細な芸術…木に例えれば完全な梢と言えよう…に感心しながらも、ローマ遺跡の圧倒的迫力…枯れた巨木とでも言おうか…には比べものにならなかった。そこには大きな歴史と力強さとそれらを思う想像の世界とが広がる。生きた枝葉ですら枯れた巨木にかなわない。どうやら私は梢よりも幹を好むらしい。その初心に歳は関係あるまい。
 もっとも、現実問題としての選択はちょっと複雑だ。貴族が純粋趣味として実験的研究を支えてきた時代は既に1世紀前に終わっている。国家が小数の学者たちに貴族的・実験的研究を認めていた時代も終わってしまった。研究が大衆化した現代では、政府の認めた「確立された」研究分野でないと給料は貰えない。時代の決める最低限度の文化的生活が立たなくては研究は出来ないから、給料の為の研究の傍らに趣味的・将来的な研究をする事になる。ただし、本格的に興味を引く研究対象だけでも3つ4つあるから、猫の足でも借りないと全てに足を突っ込むことは出来ないが。
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 そういう新分野のひとつが「神経制御機構並びに生命の起源・発生における電磁場及び弱電離流体(プラズマ)の集団力学の役割」である。これを私はプラズマ生物学と呼んでいるが、そんな言い方をしているのは世界で一人だけだから、正式な学問には程遠い。でもこれをやりたいと思う動機は易しい:
『何のために地球近辺のプラズマの研究をしているのか…それはプラズマ力学の普遍性の限界を知りたいから』
そして、その一例として「生物学・生命の起源」への適用がある。
 ただし、孤軍奮闘ではスポンサー(同僚、基金、政府、マスコミ)が良い顔をしないので、プラズマ生物学に近いと思われる「Exo/Astrobiology(宇宙生物学)」という分野の中で今の所は我慢している。実はこの「宇宙生物学」だってつい最近成立した学問領域で、そのヨーロッパ学会に至っては成立の途中なのだ。その設立総会がローマ郊外の町フラスカーティにある欧州宇宙機構(ESA)イタリア支部であったので、そこで発表すべくイタリアに初めて行脚したという訳である。
 宇宙生物学というのは、別に宇宙生命の事を言っているのではない。生命の材料たるアミノ酸等が宇宙や原始太陽系でどのようにして形成され、そのどれだけが原始地球に(おそらくは隕石という乗物で)飛来し、そのまたどの程度が(地球での)生命の発生に寄与したのかを問う学問である。と同時に「エネルギーが流れている所での準安定的な自己維持・自己複製機構」と定義した場合の生命が、果たして地球外で発生しうるか(過去に発生しえたか)を探る学問でもある。具体的には地球における生命発生の条件(古典的な「生命の起源」)を調べる必要があり、惑星・衛星・彗星・隕石・星間ガスなどに含まれる物質を調べる必要があり、それらの光学反応・化学反応の連鎖をあらゆる環境で調べる必要がある。要するに何でもありで、まさに「境界領域」科学と言うに相応しい。そもそも「生命の起源」自体が光化学・有機化学・高分子化学・放射線物理学・分子生物学・細菌学・古生物学・岩石学・火山学・海洋学・大気化学・プレートテクトニクス・太陽系生成論などの雑居である所でもって、それに低エネルギー天文学や高エネルギー天文学・惑星学等まで入ってくるのだから、その混乱は大変なもので、お互いにお互いのやっている専門を知らずに共通の目的に向かって議論する。…ああ、なんと素晴らしい世界ではないか!
 但し、今回の学会発足に際しては不安も大きかった。それはなぜ「宇宙」を冠するのかと言うこと。実は「生命の起源」に関する学会は、国際学会と日本の学会の2つしか(或いはロシアにはあるかも)存在しておらず、欧州にも米国にも独立した「生命の起源」学会はない。とすれば、まず始めに立ち上げなければならないのは「生命の起源」学会であって宇宙生物学会ではないはずだ。「宇宙」という言葉に不純なものを感ずる。
 実際、学会設立の音頭取りは欧州宇宙機構・ESAである。15ヶ国の政府が金を出し合って運営しているESAは、その巨大組織を今後30〜40年の将来にわたって維持する為の理由が欲しい。従来の天文学や惑星科学・大型ロケット開発だけでは、「フロンティア」や「国民の支援」という錦の御旗の限界に達している。だからこそ今は「国際宇宙ステーション」を目玉にして大型予算を確保しているが、これも注目を浴びうるのはせいぜい10年程度だろう。そこで目をつけたのが「生命の起源」の科学者連である。近年彼らは宇宙を「自然の化学工場」と見なすようになった。温度が下がると結晶が出来やすくなるのは小学生でも知っている事だが、それなら類似の事が超低温の宇宙空間でも起きて有機物が安定的に存在してもおかしくない。現に最新の赤外線天文衛星によると炭素原子が11個も並んだ有機物が星間雲内に見つかっている。このような「生命の材料」が何らかの手段で太古の地球にやってきたと考えるのは自然な発想だ。これらの視点からすると、太陽系や宇宙で観測しなければならない項目が山と並ぶ。
 「生命」がらみのミッションなら国民の支援を受けやすい。あとはミッションの提案だけである。その母体がESAとは独立に必要となる。だからこそ宇宙生物学会の設立にESAが全面的に支援しているのだ。もちろん学会設立の提唱者は十年以上も前から純粋科学の問題として宇宙生物学に取り組んできた人々だが、今回あわただしく学会が設立されてしまった背景にはそういう政治的な動機がある。
 問題点が2つある。
 2年前NASAが「宇宙生物学研究体」を設立したが、その結果、宇宙生物学に何の関連もないような惑星探査はかえって認められ難いと言われるほどになってしまった。明らかに行き過ぎだ。一般大衆にアピールする面だけを研究していたら片端な学問になってしまう。公害問題が1960年代に深刻になったのは、便利な製品を生む為の化学反応の研究(それが「国民の要求」であった)に偏った支援をして、その廃棄物の研究に予算をつけなかったからである。科学の色々な側面を一つ一つ独立に解き明かさなくては、本当の意味で「人類に優しい」進歩とは言えまい。別に生命がらみでなくても純粋基礎研究としての惑星探査は絶対に必要であって、それは例えば地球の理解に不可欠なものである。そういう基礎研究の為の惑星探査をNASAの「宇宙生物学研究体」は難しくしてしまっている。とすれば、そのヨーロッパ版たる今学会の設立がESAの宇宙研究分野に片寄りをもたらさないという保証はどこにもない。
 もう一点は「最も和やか」な研究分野が質的に変化する危険である。「生命の起源」をやっている連中は、ほとんどが別の分野に研究の主体をもっている。つまり給料(身分)をそれぞれの専門分野で確保しておいて、そういう専門の合間に「生命の起源」をも半ば趣味としてやっているのである。当然、研究者どおしの「予算の取り合い」をめぐるストレスがないから、リラックスした雰囲気が支配している。ここが他の専門分野との決定的な違いである。しかるに宇宙生物学をめぐる昨今の動きは少々異常で、研究所ができ、特別予算が組まれつつある。こうなると趣味の研究でなく「給料を貰うため」の研究である。そこには過当競争が生まれよう。悲しいかな近年の風潮は「評価」であり、しかも「評価=論文の数」という短絡的なものだから、出世や予算獲得、身分保証の為のあらゆる弊害が予見される。例えばあまりに中途半端な論文の出版や細かい違いの主張、論敵者への政治的ないじめなどだ。それ以前に、枝葉が強調されて大筋が見失なわれる危険がある。
 なぜ枝葉が問題なのか?
 樹木と草とは大抵の場合に幼稚園生でも見分けがつく。その違いは一本一本の草木の全体を見れば一目瞭然だが、葉だけを見ても大抵区別できるし幹や茎だけ見ても大抵区別できる。これら直感的理解を「把握」と言う。研究の理想は幹と枝葉の両方を同時に調べる事だが、現実には不可能に近い。仕方なく、吟味の際には幹の広がりだけを見たり枝葉の細部だけを見たりしている。でも、枝葉から全体像を想わなければ重箱の隅の世界に陥り、幹ばかり追って枝葉を無視しては有り難みが薄れる。把握を忘れては学問の意義が失なわれよう。
 幹と枝葉とどちらが学問の全体像を知りやすいか。阿蘇のカルデラが迫力を持つのは、陥没前の火山の高さを想うからである。恐竜の化石は骨だけで十分にその雄姿をあらわす。かように幹から木全体を想うのは易しいが、枝葉から木全体を想うのは難しい。しかるに論文の数は枝葉を研究したほうが多くなる。すなわち「競争」においては有利な訳だ。この矛盾は研究が「仕事」である限り避けられない。過当競争を恐れる理由はこういうところにある。
 以上のような不安を抱いてのローマ行きだったが、学会の設立自体はかなり満足の行くものだった。それは学会の主要メンバーがあくまで古典的な「生命の起源」学会の連中で、地球上の化学や生物の研究者が多かったから。要するに会員のスペクトルが極端に広く、「宇宙」という冠が学会の内容に大きな影響を与えるとは思えなかったからである。この妥協は、「宇宙」のなかに「過去の地球」を含める事で実現された。つまり何のことはない、宇宙生物学会は「生命の起源」に関することなら何でもOKという学会なのである。NASAの宇宙生物学研究体にせよ、今回の欧州宇宙生物学会にせよ、実は日本に遅れること数十年たってやっと設立した「生命の起源」学会と思えば良い。「宇宙」の名称は、単にESAというスポンサーを呼び込むだけのこと。少なくとも私はそのように解釈している。現に私は「すべて地球起源」説の人間で「宇宙」生物学には含まれるべきではないのだが、それでも十分な発言権を与えられている。これは私の「地球磁場も無視するな」(これはパスツール以来何度も提案されてはいるが)という立場が稀少(世界で数人だけで、太陽光を使わない立場ではほとんど唯一)だからと云う事情もあるが、それ以上に学会の性格が過去の地球を念頭におくものだからである。ちなみに、私の立場は「幾何的に安定な自己複製構造としての螺旋(要するにDNAの事だが)をプラズマ動学的に安定な構造としての螺旋に結びつける」という集団力学的・電磁力学的発想で、過去の地磁気説の発想とはちょっと性格が異なる。要するに量子的安定か波動的安定かと云う話だが、詳しい事はここには書かない。
 今回の設立総会は、実はそれに至るまで2度も延期になっている。当初は昨年10月にオランダで開かれる予定だった。早々に講演申し込みをしていたところ、参加希望者が少なすぎるとのことで3月に延期になり、それも更に延期になったのである。ただし延期しただけの効果はあって、いきなり200名の参加(講演数120)となった。第一回としてはかなりの規模である。それらの人間が一同に集まって学会組織を決めていく訳だが、このくらいの数になると「全てを全員合意」などとは言ってられないので、代議員に任せるべく簡単な手続きを踏んだ。まず評議員を決める条項を1日目の総会で決め、翌日選挙をして、選ばれた人間でとりあえず暫定条項だけ作って、それを最終日3日目にぎりぎり可決し、後は来年までに評議員に任せたのである。当然、参加者全員「今回は出来るだけ手抜きでやる」と了解しているが、でもそこはヨーロッパだから色々な人間が色々な事を言って結構時間がかかった。
 一番もめたのが評議員の選び方である。結局、「評議員24名のうち半分は欧州12ヶ国からの国代表とし、残りの『分野代表』的性格を持つ12名は会員全員による選挙で決める」という事でおさまったが、当初の予定で信任投票だったのが総会で次々に推薦が出て選挙になってしまうという一幕もあった。会員の資格についても若干混乱した。なんせ今回の学会設立では「アメリカへの対抗」と云う意識のもとヨーロッパ主義が強くにじみ出ているから、他の、例えばロシア人やアメリカ人の待遇はきちんと確認しないといけない。日本人となると更にマイナーな立場だ。いくらスヱ−デンからの参加とはいえ私はあくまで日本国籍だから、障害は一切あってはならない。そこで「ヨーロッパ以外の会員もすべて歓迎」という点だけは念を押したが、それゆえに、どういう訳か私はアジア系アメリカ人と思われてしまった。
 選ばれた24名の互選で役員が決まる。会長には当然なるべき人物(十年以上もこの学会を始めようと頑張ってきたフランス人)がなって、会計はスイス人、対外関係と宣伝がイギリス人、出版がオランダ人、Web担当がオーストリア人、雑務係が(確か)ドイツ人に決まった。なるほど! 見事に民族性が出ているではないか。ヨーロッパはこれだから面白い。次期総会はオーストリアのグラーツで来年9月中旬にある。

 さて、会議の内容だが、この種の会議で通例の如く1日目の午前には各国での Exobiology の取り組みの報告があった。一番進んでいるのは昔から熱心なフランスで、既に約100人の研究者が宇宙生物学に従事しており、それを支援すべくGDR Exobio と云う正式な予算企画機関が1999年にCNRSとCNESの傘下として設立されている。英国ではフランスほど組織だった研究はしていないが、各大学や研究所で日本と類似の研究がされており、その情報交換の核として1998年にUK Astrobiology Forum (UKAF) が設立されている。ただし、GDR Exobioと違って研究者に配分する予算は持たず、あくまでブローカー的な役のみである。米国では1999年のNASA Astrobiology Institut e(NAI)設立に見られるように宇宙生物学が急成長しており、今年だけでもNAIの予算が5倍(約百億円)になる。NAI は研究所と振興会を兼ねたような組織で、総予算のうち1〜2割が米国内の研究者に科研費として配分される。最近目覚ましいのはスペインで、宇宙生物学専用の全く新しい研究所(Centro de Astrobiology)を建設しつつあって、半年後に開所する。一方、ライデン大学のオランダを筆頭に伝統的な宇宙化学という形で宇宙生物学研究が発展している国々もあるが、特に時間を割いての報告はなかった。関連の宇宙観測計画としては、チリに世界最大の赤外線望遠鏡が2007年に出来るほか、人工衛星ではROSETTA(彗星のサンプリング)、DARWIN(多数の赤外線衛星)、GAIA(星の位置の正確な決定による太陽系外惑星の探索)などの大型ミッションが近い将来に予定されている事が報告された。
 研究講演のほうは「生命の起源」関係者が中心で、化学進化関係(実験、探査、採集、観測、理論)の発表が一番多く、次に極端環境での生命(高低圧、高低温、宇宙線、紫外線、無重力等)や生命の痕跡の同定(化石、隕石等)の問題と続き、残り約2割が「宇宙」生物学特有の話で、宇宙空間や惑星、彗星などでの有機物生成の問題(天文観測、モデル)や惑星ミッションについてであった。その一方で「生命の起源」の学会なら確実に1日は費やすであろう生物進化や太古地球モデルについての発表はほとんどなく、これらは次回の総会から発表が増えることを期待したい。以下がプログラムの骨子である。

Key-note lecture
 宇宙と生物における分布についてGaussianやPower Lawとの比較
Plenary Session 1: National and International Activities in Exo/Astrobiology
 フランス、イギリス、NASA、ESA での宇宙生物学の取り組み
Plenary Session 2: Life in the Extremes, Terrestrial Analogues for Extraterrestrial Habitats
 岩塩や永久凍土に保存された生命体や有機物が教えてくれること
 深海という高圧高温を好む生物の性質
Plenary Session 3: The Ingredients of Life and Chemistry of Primitive Life
 化学反応によるアミノ酸の生成と安定性/光学的異方性の生成と安定性
 (地上実験、宇宙実験、赤外線観測、惑星探査、理論、隕石採集)
Plenary Session 4: Extraterrestrial/Extrasolar Habitability
 太陽系外惑星の観測、そのような惑星を持つ星の条件、その条件での惑星大気モデル
Plenary Session 5: The Nature of and Search for Life in the Solar System and Beyond
 太古の生命の「化石」の同定法と、その手法の火星への応用
Plenary Session 6: Search for Life in the Solar System (Missions)
 もしも火星に生体物質が存在したとしたら?その意味するもの、及びその保全について

Splinter Session 1: Chemistry of the Origins of Life and Extraterrestrial Organic Chemistry
Splinter Session 2: How can we search for Life in the Solar System?
Splinter Session 3: How does Life adapt to the Extremes
Splinter Session 4: Are we alone in the Universe?

 設立総会の常として、講演は今までの研究の総括的なものが多く、その意味では新しい情報よりも現在の研究の広がりを知るのに良い機会だったが、それでもいくつか新しい情報があった。以下、個人的に新鮮味を覚えた内容だけを拾っていきたい。なお、Proceeding (non-refereed) がESA-SPシリーズとして出版される事になっている。

*銀河の質量の5パーセントにあたる星間雲をISOで観測した結果、既にCOからHC11N までが同定されている。
*惑星をもつ恒星(すでに67個見つかっている)とそうでない恒星とではFe/H比が全然違うがL/H比は似たような値を持つ。
*太陽系外惑星が生物を持つ環境(温度、組成等)になりうるかどうかの一次元大気化学Simulationをすると、G型かH型の恒星でないと難しいという結果が出る。
*過去の生命の痕跡は今のところ形態(例えばスムーズさの標準偏差や対称性等)で調べるしかない
*最新の器械「Time of Flight Secondary Ion Mass Spectroscopy」では物質の組成ごとの形態が分かり、これで調べると隕石が極めて早くその内部まで地球の生体物質に汚染されているのがわかる。
*アミノ酸は温度と湿度が相当に低くないと直ぐにラセミ化するので、惑星や彗星のキラリティー探査はその場で調べる必要がある。
*外部磁場に沿って紫外線(非偏光)を照射すると、磁場強度に比例して生成物質にキラリティーが現われ、入射方向が磁場に平行か反平行でキラリティーが逆になり、磁場に垂直な紫外線だとラセミになる(去年のNatureの6月22日号に載っている)。
*宇宙空間におけるアミノ酸の最大の敵(=生成源でもある)は紫外線で、真空や宇宙線はそこまで問題ではない。
*シベリアの永久凍土を調べると、約3万年前の細胞構造もきちんと同定できる。また、-70Cでも氷の中に「液体水」の小さな領域が存在しうるので、細菌レベルの生命の保存は十分に可能である。
*タイタンのように温度の低い惑星では、CH-のラディカルが大気化学で重要であって、それさえあればたとい雷放電がなくともかなりの有機物をメタン族から生成しうる。
*DNAコードのフラクタル次元を調べると、原始的な段階で既に無次元構造になっていて、ランダムな過程を示唆している。

2001年5月21〜23日 「欧州宇宙生物学会」 山内正敏

追記:個人的には温度が下がる際に鉱物が結晶になるとの同じ原理で地球上に生命が生まれ、その温度低下の際に激しいエネルギーの流れに晒された為に単なる結晶ではなく巨大な分子になったのだろう(=プラズマ物理的考え方)と漠然と考えているはいるが、とにかく何を言っても「嘘」にならない学問だから、来年の総会には全然違うことを言っているかも知れない。