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神経再生に関する疑問

以下、私の素人考えですので、医学的に正しいかどうか分かりません。間違い等がありましたら、ご連絡頂けると助かります。

2005-11-13 (revised 12-12) 山内正敏 (m.yamauchi@irf.se)

 軸索型ギランバレー(Axial GBS)の多くは後遺症を残します。その直接の原因は、(神経束内の)神経繊維の数が、病気前に比べて極端に減ったまま、殆ど回復しないからです。一方、近年注目を浴びている幹細胞やES細胞は、神経がらみの難病や後遺症の治療に有力だろうと思われています。そこで、将来の治療の可能性をにらみつつ、後遺症について考えてみました

 神経細胞は、神経幹細胞が生きている限り1〜3年周期で常に再生しつづけている筈ですから、GBSが本当に一過性の病気なら、病気後3年も経ては正常にもどる筈です。にもかかわらず多くの患者が後遺症を実感しています。この後遺症の理由として今のところ
『神経細胞は再生するが、細胞本体が再生しても、そこから延びる神経繊維が行き先が分からない』
という説明が広く信じられているようです。確かに、神経を回復させるメカニズムそのものが損傷を受けていたら、長期的な回復そのものが有り得ない筈で、寧ろ、現存の神経が次第に死んで行く過程として、他の神経難病と同じく段々悪化する筈です。しかし、現実のGBSではゆっくり回復して行きます。しかも、一端回復し始めた部位ほど回復が進み、問題は回復を始めるかどうか(とくにダレ足など)にあります。こういう事実を考えれば『行き先不明』説で良さそうにも思えます。
 ところが、私にはこれでは不十分な気がしてきました。というのも、遅く回復し始めた部位ほど、いつまでたっても回復が遅いままだからです。例えば私の場合、脚力は3年前からゆっくり回復していますが、その回復は殆ど一定のペースで極めてゆっくりとしたものです。回復が続いているという意味では、確かに一端つながった神経が少しずつ太くなっているのかも知れません。しかし、本当に『行き先不明だからつながらない』のであれば「行き先が分かればつながる』筈だから、後発組の再生神経は、先発組の神経の跡を辿るという事で、それこそ3年でかなり回復する筈です。そうはなっていません。これは、単に『行き先不明だからつながらない』という理由だけでは説明できません。
 むしろ、神経細胞の再生そのものが遅いと考えた方が自然な気がします。 つまり、神経幹細胞や神経前駆細胞がダメージを受けて、再生能力が極端に悪化したと考える訳です。これなら軸索型GBSの神経の回復の停滞が説明出来るでしょう。具体的なシナリオを思いつくままに2、3挙げてみました。

(0)巷で信じられている、上記の『行き先不明』説
(1)神経幹細胞の数や分裂能力が圧倒的に落ちて、1〜3年周期の新陳代謝で維持できる神経の数が激減する。
(2)神経幹細胞から運動神経へと分化する過程が阻害される。たとえば、近年、神経幹細胞から、特定の神経細胞(前駆細胞)への進化を促進したり阻害したりする抗体の存在が分かってきたが、GBS発病(=異常免疫)を境に、その抗体の多い/少ない状態がずっと続いている。
(2b)運動神経に関わる神経幹細胞(前駆細胞と幹細胞の中間みたいな存在、神経根と言うのかな)が何らかの理由で生成出来なくなり、僅かに他の幹細胞から借用して運動神経を(非効率的に)再生している。
(2c)上とは逆に、神経幹細胞の無制限な分裂を防ぐする物質(ガンを防ぐ物質)が血漿の中にあり、その物質が、発病=異常免疫の生成と同時に(体が神経細胞を癌の一種と誤判断して)、常時過剰分泌されるようになる。

 さて、ここで、後遺症の治療という事を考えると、(1)の場合は神経幹細胞を増殖させて骨髄に移植してどうのこうのという話でしょう。ところが(2)の場合は、運動神経へと分化を阻害している抗体や物質が過剰分泌しないようにしなければ、いくら神経幹細胞を移植させても効果が上がりません。一方(0)では、運動神経の繊維の延びる行き先を教える技術の問題となります。つまり対策が全然違って来る訳です。
 かなり充実したリハビリ訓練を3年以上も行っている人間の実感としては、(2)が正しいような気がしてなりません。(2)を支持するもう一つの理由として唾液や胃液を始めとして体の基本的な分泌物が病気を境に変質しているように感じるからです。胃石や腎臓結石が大量にできるようになったのは、体内の分泌系統が乱れているからに他なりません。さらに(2)のシナリオだと、免疫グロブリンが治療に効く理由も多少説明出来ます。
 とすれば、当然、このシナリオを検証する研究、具体的には、神経幹細胞から運動神経へと分化を促進/阻害する元凶物質や抗体を決定する研究が欲しいと云う事になります。しかし、残念ながら、私の知るところ、GBSがらみの研究でこの可能性を研究をしているという話は聞いた事がありません。いくら、元凶物質/抗体の決定は難しいにせよ、せめて(2)のメカニズムであるかどうかぐらいは調べて貰いたいものです。後遺症の本当の理由さえ分かれば治療法も確立しやすい筈ですから。

 以上はあくまで素人考えですので、専門家のご教示を仰ぎたいところです。そして、何より神経再生技術がGBSの後遺症対策に応用される日が一日でも早からんことを祈ります。


------- 蛇足(以下は私の素人理解です) --------

神経幹細胞: 無限に分裂しえて、しかも神経がらみの全ての細胞に分化する「未分化」細胞
神経前駆細胞:限られた回数の分裂の後に特定の神経(例えば運動神経)のみに分化する「未分化」細胞

神経の生成は、神経幹細胞→神経前駆細胞→神経細胞
という風になっていて、その違いは以下の通り

実際の培養では神経幹細胞と神経前駆細胞を分離するのは難しい。

関連ウェブサイト
脳内の話−1
脳内の話−2
ショウジョウバエの話